(演題4)造血器腫瘍と鑑別を要する固形癌について

愛知県がんセンター病院臨床検査部  蒲 貞行


《供覧症例;症例4−1》

<4歳、男>

<臨床経過>
1ヶ月半前に、家族が左鼻翼部の腫脹及び鼻閉に気付き、近医受診、血管腫の疑いと言われ、A病院を紹介された。A病院入院時での鼻部腫脹は3×5cm大、硬性、不動性、発赤(+)、鼻閉(+)、鼻汁(-)、顔面紅潮(+)であった。その後、左鼻部腫瘍生検、下顎部リンパ節摘出、上口唇・歯肉移行部再発部位の生検などが施行され、放射線治療が実施された。
初回入院から3年後、左頚部腫脹リンパ節摘出術が実施され、同スタンプ標本が作製(供覧写真)された。


<CBCデータ>
左頚部腫脹リンパ節摘出術が実施された当時
WBC  6,500/μl、RBC  455×104/μl、 Hb  8.7g/dl、Plt  39.1×104/μl、
血液像:baso 1%, stab 14%, seg 44%, lymph 40%, mono 1%


<供覧写真> (クリックすると元のサイズで見られます)
初回入院3年後、左頚部摘出リンパ節のスタンプ標本.
メイ・ギムザ染色: 1. 対物×40 2. 対物×100 3. 対物×100
パパニコロウ染色: 4 .対物×40 5. 対物×100 6. 対物×100

 

1. 対物×40(メイ・ギムザ染色)


2. 対物×100(メイ・ギムザ染色)


3. 対物×100(メイ・ギムザ染色)


4. 対物×40(パパニコロウ染色)


5. 対物×100(パパニコロウ染色)


6. 対物×100(パパニコロウ染色)


→診断名;【症例4−1:              】


症例4−1の細胞形態の鑑別要点

「造血器腫瘍と鑑別を要する固形癌」について

造血器腫瘍と鑑別を要する固形癌は、腫瘍細胞が小型で円形のことが多く、発生起源を特定できない場合を含めて便宜的にいわゆる"小円形細胞腫瘍"として総括されることがある。
また、"小円形細胞腫瘍"には小児に好発する疾患が含まれ、細胞像とともに年齢、性別、発生部位を踏まえた上での鑑別診断を行なうことが大切である。


<小円形細胞腫瘍の鑑別点>

1) 小児〜青年、小円形細胞:
髄芽腫、網膜芽腫、神経芽細胞腫、横紋筋肉腫(胎児型、胞巣型)、いわゆる"ユーイング肉腫"、
前駆T/Bリンパ芽球性白血病/リンパ腫、未分化大細胞型リンパ腫

2) 成人、小円形細胞:
悪性黒色腫(メラニン顆粒が乏しく、小型円形のタイプ)、小細胞性未分化癌、

3) 結合性〜接合性(+):
髄芽腫、網膜芽腫、神経芽細胞腫、いわゆる"ユーイング肉腫"、悪性黒色腫、未分化大細胞型リンパ腫

4) PAS染色(+):
横紋筋肉腫(胎児型、胞巣型)、いわゆる"ユーイング肉腫"、悪性黒色腫(-/+)、
前駆T/Bリンパ芽球性白血病/リンパ腫

5) 小児〜青年、小円形細胞、結合性(-)、PAS(+):
横紋筋肉腫(胎児型、胞巣型)、前駆T/Bリンパ芽球性白血病/リンパ腫



【参考】
Tumours of Haematopoietic and Lymphoid Tissues(WHO分類、2001年)によると、
前駆T/Bリンパ芽球性白血病/リンパ腫: 

前駆Bリンパ芽球性白血病/リンパ腫:

・前駆Bリンパ芽球性白血病は、1. FAB分類でのL1、L2と同義語である。2. 小児ALLの約75%を占める。3. 男児が多い。4. 全例が末梢血、骨髄に浸潤する。他に、中枢神経、リンパ節、脾、肝、性腺など。5. Tdt(+)、PAS(+)

・前駆Bリンパ芽球性リンパ腫は、1. リンパ芽球性リンパ腫の約10%を占める。2. 皮膚、骨、軟部、リンパ節等に見られ、縦隔腫瘍はまれ。3. Tdt(+)、PAS(+)

前駆Tリンパ芽球性白血病/リンパ腫:

・前駆Tリンパ芽球性白血病
は、1. FAB分類でのL1、L2と同義語である。2. 小児ALLの約15%を占める。3. 男児が多い。4. 全例が末梢血、骨髄に浸潤する。5. Tdt(+)、acid-phosphatase(+)

・前駆Tリンパ芽球性リンパ腫は、@リンパ芽球性リンパ腫の80〜90%を占める。A約50%に縦隔腫瘍が見られる。Bリンパ節、脾、肝、ワルダイエル輪、性腺などに見られる。CTdT(+)、acid-phosphatase(+)


未分化大細胞型リンパ腫: 
1. 成人の非ホジキンリンパ腫の約3%、小児リンパ腫の10〜30%、2. ALK+の未分化大細胞型リンパ腫は小児の男に多い,3. 浸潤部位は、リンパ節と節外部位(主に皮膚と骨髄)、4. 骨髄浸潤はHEのみでは10%、CD30、EMA、ALKを使用した場合は30%ほどになる。5. リンパ節では、転移性腫瘍の様に、副皮質に集合し、細胞相互に密着した出現性(cohesive manner)を示す。従って未分化がんの転移と鑑別を要する。

その他:
び慢性大細胞性リンパ腫、成人T細胞性白血病/リンパ腫、ホジキンリンパ腫
などでも症例によって、あるいは出現部位によっては固形癌と鑑別を要する場合がある。



<提案理由>
   解答: 鼻翼原発横紋筋肉腫(胞巣状)のリンパ節転移

横紋筋肉腫は肉腫の内でも比較的発生頻度が高い。主に小児〜青年(胎児型、胞巣状)に多く、中高年令層(多形細胞型)では少ない。また、横紋筋肉腫では、その約半数例に骨やリンパ節への転移が見られるとされる。(軟部腫瘍アトラス、文光堂)。
形態学的には、リンパ芽球型リンパ腫との鑑別が必要である。両者共にN/C比大、クロマチンが繊細な小円形の腫瘍細胞から成り、散在性に出現し、細胞間の結合所見は見られない。また、PAS染色により、一般的に横紋筋肉腫では顆粒状(+)であるが、リンパ芽球型リンパ腫もしばしば顆粒状〜小塊状(+)を呈するため、両者の細胞形態学的鑑別は最も難しい課題の一つである。自験例が少なく断定できないが、本症例に関する限り、Pap.染色で核小体が不整形、核が類円形である点は、悪性リンパ腫で見られる類円形の核小体、核形不整とは異なる所見である。
本症例は25年ほど前の症例であり、当時はモノクローナル抗体での検索は行なわれていないが、通常、横紋筋肉腫ではmyoglobin, desmin等が(+)を示す。